善悪の彼岸

ノリと勢いでフランスに来たエンジニアが個人開発や好きな哲学、フランス生活について書くブログ。

ノブレス・オブリージュの精神とアメリカの能力主義の限界【なぜフランスでは美術館もプログラミングスクールも無料なのか?】

美術館,図書館,プログラミングスクール,あらゆる施設が無料の国フランス

 

フランスには無料の博物館や美術館が非常に多い.

私なんかあまりお金がないので,土日に無料の美術館を周るのが全然回り切れないくらいである.

 

例えば,カルナヴァレ美術館.

www.carnavalet.paris.fr

フランスの歴史にかかわる書物や,昔の人の生活に使った道具を展示している博物館である.ピカソ美術館に行った際に無料だからとついでで訪れたのだが,その展示量に圧倒された.たぶん上野の国立博物館と同レベルの展示量である.

カルナヴァレ美術館にあった刀剣の展示

また,パリ市立近代美術館.

【パリ市立近代美術館】入場無料!館内広々、家族で楽しめる現代アート - Paris Art Navi

 

広大な空間に様々な現代アートを展示している.もちろん無料である.

近代美術館にあったなんかよさげな絵.

また,ルーブル美術館ロダン美術館などの美術館も年に1~2日,無料の日があり,誰でも凄まじい量と質のアートを楽しめるようになっている.

 

更に美術館だけでなく,無料の図書館もたくさんあり,今この文章を打っているフランス国立図書館も,入館とワークスペースの利用は無料.大量の机と電源が完備された本の閲覧室も17時~20時の間は毎日無料である.

 

ほぼ毎日通っているフランス国立図書館の閲覧室.17~20時の間は無料.私は20ユーロくらい払って年パスを購入しているのでいつでも入れる.

更に無料なのは図書館や美術館に留まらない.なんとプログラミングスクールも無料である.

42.fr

 

フランス発のプログラミングスクールである42は,学費無料のプログラミングスクールで,年齢,学歴によらず誰でも入学できる.オンラインスクールではなくちゃんとパリにキャンパスがあるプログラミングスクールである.しかし入学のためには1か月のPiscineという入学試験を突破しなければならずPiscineの間はほとんど毎日通学しなければならない.要するに本当にやる気があれば入学無料ということである.42はフランス発だが東京やロンドンにもあり,42の存在を教えてくれた友達はロンドン校に通っているらしい.私もとりあえず入学しようかなぁと考えている.

 

無料の施設を支える寄付文化

しかし何故こんなに無料で学校や博物館を提供できるのか?私はずっと疑問に思っており,以前語学学校の先生に聞いたことがある.それによると,実際政府からの資金だけでは全然運営資金が足りないらしい.そりゃそうだ,いくら重税国家とはいえどこれだけの施設を万人に開放するのは無理がある.施設の運営を可能にしているのは企業や富裕層からの多額の寄付とのこと.毎年,彼らが莫大な寄付を行っているおかげでこの無料施設が成り立っているのである.

 

別の話なのだが,私がホームステイしているホストマザーもよく近所の人を招いてパーティーをしている.今日は,「娘が引っ越しをするので,余った電子レンジをもらってきたが,うちには既に電子レンジがあるので近所のお金がなさそうな人にあげるの」と言っていた.彼女自身もそんなにお金がある方ではないと思うのだが,積極的にそのような慈善活動(?)を行っている.

 

フランスには高い社会的地位には義務が伴うことを意味するノブレスオブリージュという言葉がある(東のエデンのあれ).まさにこのノブレスオブリージュが国民に浸透しているのをなんとなく感じる.

 

ja.wikipedia.org

アメリカで起きたエリート層と一般市民の分断

話は変わるが,少し前の大統領選挙でカマラハリスがドナルドトランプに大差で負けた.「なぜこんなハチャメチャな人物が大統領に」とか「トランプに入れた人は大卒でない比率が高い」とかまぁ色々言われている.

 

 

 

結局は民主主義であるからには,一部のエリート層がどう思っているか?ではなくその国の大部分の人がどういう状態にあるか?が大事であり,その視点がハリス支持側には抜けていたということな気がする.そして,ここらへんにノブレスオブリージュの精神や無料の施設の話が関わっている気がしている.

 

極端な能力主義×資本主義の限界

アメリカは能力主義なので,どこの出身で何歳であろうが,能力が高ければ活躍できるという社会である.だが実際には,能力を高くするための環境を構築するのにクッソ高い学費や,経験を積むための投資が必要で,結局親が金持ちか?そもそもの環境に恵まれているか?という話になり,それによってエリートと貧困層の間の分断が広がっている.貧乏人にはそもそも挑戦権がないのである.

 

 

この能力主義に資本主義が悪魔合体すると,「なんとなく芽がある」奴に投資したほうがリターンはいいよね?という話になり,そもそも「芽があるか」どうか判断される機会すら持てない貧困層とエリート層の分断は更に広がっていく.

 

しかしひとたび選挙となれば,全国民が一人一票持っているわけで,移民を排除して地球温暖化とか知らんけどエネルギー資源掘り起こしまくって,みなさんの生活を楽にします!と訴えたトランプが勝つのである.

今回でいえば「なんであんな論理が破綻してる人物が大統領に?」とか「民主主義が破壊される!」とかエリート層はいうが,トランプ支持の人からしてみたら「そんなことより日々の生活のほうが大事なんだよ」という話である.

結局,民主主義と能力主義がすこぶる相性が悪いという話な気がする.

 

ノブレスオブリージュの精神が国を成長させるのでは

ここでノブレスオブリージュの話が出てくる.国とはすなわち国民であり,民主主義であるからに国民の大多数が考えていることによって国全体の決断が行われるわけで,決断の質を上げるためには,国民一人一人を教育し,文化レベルを上げていくしかない.ではどうするかといえば,フランスのように,少しでも富んでいるものがノブレスオブリージュを発揮し,教育の機会や文化に触れる機会を全ての国民にリーチする形(無料にする,若い人には安くする等)で提供していくしかないのではないかと思う.

そして,その恩恵を受けて成りあがった人間もまた富を独占するのではなく,次の世代のために環境を構築していく.こういうことの繰り返しでだんだん国が良くなるということなんじゃないだろうか.