善悪の彼岸

ノリと勢いでフランスに来たエンジニアが個人開発や好きな哲学、フランス生活について書くブログ。週2更新。

フランス理系大学院受験記①~受験の動機から受験校決定まで~

2月から今まで、フランスの理系大学院(修士)を受験していた。3校アプライしていたのだが今週結果が出揃い、なんとか1校から合格をいただけた。

 

 

文系でフランスの修士を受験する話はよく聞くが、理系でフランス修士を受験する話はあまりネット上で見かけない。そこで何回かに分けて、フランスの大学院の制度や探し方、そもそも何故フランスで大学院か?などについて書いていこうと思う。

 

かろうじて1校から合格を頂けたので、こんな偉そうなことを言ってるが、私は今年の1月にパリカトリック学院でフランス語A1のコースを修了した程度の語学力だし、日本で卒業した大学院と大学のGPAはゴミ中のゴミだし、自分自身なぜ合格したのかよくわからない。ただ、日本で働いていた時、よく海外大学院の体験記を片っ端から読み漁って「海外大学院行ってみたいけどこんなGPAじゃ無理か...」と絶望していたので、意外とクソ成績でもいけるぞと発信することで、誰かを勇気づけられるかもしれないと思い今書いている。

 

自己紹介

30代前半男性、既婚

 

略歴

2025.2 - 2025.6 フランス大学院を受験

2024.9 - 2024.12 妻とともに渡仏、パリ・カトリック学院でフランス語A1コースを受講)

2024.1 - 2024.8 フリーランスエンジニア(ほとんど無職)

2018.4 - 2023.12 関西大手電機メーカーでソフトウェアエンジニア(半導体設備)

2016.4 - 2018.3 東京工業大学 情報理工学院 知能情報コース

2011.4 - 2016.3 東京農工大学電気電子工学科

 

出願時のスペック

受験した1校ではIELTSが必要だったので、何回か受験し、最終的にOverall 6.0(R:7.0 L:6.0 W:5.5 S:4.5)で出願した。(ちなみにその学校は落ちた) GPAは学部、大学院ともめちゃくちゃ低く、周りに伝えるとドン引きされるレベルである。ちょっと恥ずかしいのでぼかすが学部、大学院共に2.0以下である。研究留学経験などもちろんなく、奨学金も30代+成績ゴミで全くイケる気がしなかったのでそもそも出していない。大学院は情報系で、学部は電電である。サークルやオンラインゲームに明け暮れた結果、学部で1年留年している。大学院卒業後は略歴に書いた通り、6年弱関西の電機メーカーでソフトウェアエンジニアとして働いた後、去年9月に妻と一緒に渡仏してきた。その時に会社はやめている。

 

なぜフランスで修士課程か?

前述したように元々いつか海外の大学で勉強してみたいという漠然とした希望があったのだが、不真面目な学生だったし成績も悪いしで諦めていた。ただ、妻も元々海外志向があり、結婚前からいつか2人で海外行きたいねとよく話をしていた。大学院を卒業後、妻も私も社会人として5年働き、コロナも明けたので挑戦してみるかということで渡仏することにした。また、妻のワーキングホリデービザが発行できる期限が迫っていたことも一因である(フランスは満31歳までならワーホリのビザで一年間働きながら滞在できる)。

 

フランスを選んだ理由はもともと妻がフランス語を勉強していたということと、パリなら多国籍だし割と住みやすそうじゃね?ということで選んだ。本当はアメリカの大学院とか挑戦してみたかったが、昨今の過熱したアメリカ大学院受験戦争の様子を見ると、とても自分が太刀打ちできると思えず、あまりGPAが関係ないとネットで噂されていたヨーロッパを選んだ。

 

会社を辞めた時点ではヨーロッパのHCI系の博士課程に挑戦するつもりだった。ヨーロッパでは多くの博士課程の学生に給料が出るし、研究自体はそれなりに好きだったからである。会社を辞めた後、何個かドイツやフランスの博士に応募してみたのだが、ほとんど相手にされず手応えがなかった。海外博士進学のブログなどを読むと、断られようが何十校も連絡して勝ち取るのが必要だと思うが、その時の自分にはそこまでのモチベーションがなく、まだ海外博士に行くほどの実力もないと判断したため修士に切り替えた。

 

また、それまで自分は工場設備のソフトウェアエンジニアとしてのキャリアを歩んでいたのだが、どこかでプロダクトデザインや人間中心設計、UXデザインを学んでそっち方面にキャリアの舵を切りたいと考えていた。どうせ会社辞めて好きなことするなら、本当に今自分がやりたいことをやろうと思い、海外のデザイン修士を探し始めたのだった。海外のデザイン修士はニューヨークでデザイナーをされている岩渕正樹さんが書かれた記事がとても読みやすい。

 

note.com

 

フィンランドのアアルト大学やMITのMediaLabなど行けるもんならマジで行きたい大学院がたくさんあるが、どこも非常に学費が高い。アメリカはもちろん高いが、ヨーロッパでも一年間で200万~600万くらいかかるところがザラである。しかし、このリストには載っていないものの、ヨーロッパの中でも学費が安いと噂のフランスなら意外とあるのでは?と思いデザイン系のフランス修士を探し始めたのだった。

 

フランス大学院の探し方と倍率

フランスで大学院を探す場合に役に立つのがMon masterというサイトである。また別の記事で書くが、フランスでは国内在住の人が修士1年に出願する場合、恐らくすべての大学がこのMon master経由で行われる。私も合格したUTCもこのMon master経由で応募した。

 

monmaster.gouv.fr

 

Mon masterでは国内の修士プログラムの検索ができ、下記画像のフォームに検索ワードを入力するとマッチした大学院を探すことができる。

 

Designで検索すると156件ヒットした。

フランスの大学院は各コースでの募集人数が10人~20人等かなり少ない。以下のしもーぬさんの記事によると近年では、修士入学希望者に対して大学院の定員が足りていないことが問題になっているらしい。以下引用。

 

Ministère de l'Enseignement supérieur (高等教育・研究・イノベーション省)の発表によると、2021年にフランスの学士号を取得した学生のうち2人に1人以上が翌年修士課程に入学している(58%)。対して、日本では、2022年の学校基本調査によると大学の学部から大学院への進学率は12.4%。フランスの学生は文系理系関係なく、日本の学生よりも圧倒的にマスターに進学するのが今やスタンダードになっている。

さらに、バカロレアを取得して高等教育課程に進学する学生が増えているのでにマスターの定員は増えておらず、法学や心理学など特定の分野や人気のマスターによっては20名定員のマスターに1900名が出願したりという状況もあるらしくフランス人学生でさえも希望のマスターに進学することはなかなか厳しい状況にある。

 

note.com

 

しかしMon masterが公開したデータによるとMon masterで出願した71%の学生が1校以上の大学院から入学許可を得ているらしく、全体としてはそこまでシビアではないのかもしれない。

www.enseignementsup-recherche.gouv.fr

 

ちなみにMon masterではその大学の合格倍率(TAUX D'ACCES)を見ることができる。(合格率を公開していない大学も多い)

理系の名門 EcolePolytechniqueのデータサイエンス系修士の合格率は13%

 

多くの大学院の合格率が10%から20%になっているが、パリ大学に進学したliccaさんによればこの倍率は日本の大学の倍率とは違っているらしい。以下抜粋。

 

上記の数字を一瞬見れば「この大学の受け入れ率は45%、倍率は約2倍」と思われるかもしれない。
しかしこの率は「最後に(補欠で)繰り上がり合格した受験者の順位(62)を全体の受験者数(137)で割ったもの」であり、我々に馴染み深い単純な「倍率」ではない。
MonMasterを読む限り「誰かが辞退する⇒補欠番号が繰り上がる」を繰り返して最終合格者をを決めるように見受けられるので、その繰り上がりの番号つまり受け入れ率は「受験年度による運」としか言えないところがある。

ちなみに上記の画像は私の課程(約25人在籍)のデータで、実際の在籍数を使って計算すると倍率は約5.5倍(全体の受験者数137÷在籍者数25=5.48)である。

そして25人の中マジョリティ(20名弱)を占めるのは学部から直接持ち上がってきた子たち。
外部入学の倍率が恐ろしいことになっているのは想像に難くないだろう……そして外部入学の倍率は、受験者と合格者の詳細データ(内部外部の区分)がないため闇の中である。

 

note.com

 

正直、入学倍率に関してはいくら調べても良くわからないが、全体としてはそこまでシビアではないものの、人気校への入学は厳しいということなのかもしれない。

 

受験校決定

色々調べて以下の3校に応募することにした。

 

コンピエーニュ工科大学のDesign Center Experienceコース

www.utc.fr

パリの北側コンピエーニュという街にある工学系グランゼコール。フランスに3つある工科大学の一つ。このコースは哲学や社会学をバックグラウンドとして学びつつ、UXデザインや人間中心設計を学ぶというもの。他の大学ではあまり見ない切り口だったので面白そうだと思い応募した。フランスではBlaBlaCar等、社会問題に対してソフトウェア技術を使っていい感じに皆がWin-Winになるようなシステムを開発するのが得意だなぁと感じており、そういうのを学ぶのに良さそうだと思った。

↓BlaBlaCarの紹介記事

chamekichi.hatenadiary.jp

フランス語のコースなのだが、なぜか語学要件がかなり緩くA2レベルで良いということになっている。理系は文系に比べてだいぶ語学要件が緩いが、それでも基本B1レベルは必須となっており、A2レベルで良いというのはとても魅力的だった。(しかもその後担当者に連絡したら修士2年時にDELF B1が取れれば、入学時にA2の証明書は必要ないと言われた)

フランスではM2から編入することもでき、このプラグラムでもM2編入は可能だったのだが、M2編入だと語学要件がB1に引き上がるのと、現在のフランス語レベルではどう考えても1年で卒業するのは無理だと踏んだためM1に応募した。

 

Institut Polytechnique de ParisのInteraction, Graphics & DesignコースのM2編入

www.ip-paris.fr

理系フランス大学院の中でも超トップレベルの大学院であるInstitut Polytechnique de ParisのInteraction, Graphics &DesignコースのM2編入。多分フランスの理系グランゼコールで一番人気。なんと本コースは英語で受講できる。フランスで英語で受講できるデザイン・情報系のコースはなかなか珍しいため、正直厳しいかもなぁと思いつつワンチャン受からねえかなと思い応募した。

 

パリ・サクレー大学のHuman Computer InteractionコースのM2編入

www.universite-paris-saclay.fr

フランスの理系大学院としてめちゃ有名なパリ・サクレー大学のHCIコースのM2編入グランゼコールではない(?)。このコースも英語で提供されている。英語で提供されている時点で問答無用で応募確定である。IP Parisには英語の語学要件がないが、パリ・サクレー大学はTOEIC 785以上か、IELTS Overall 6.0以上で応募できる。フランスの大学院は結構TOEICで応募できるところがあり、他のヨーロッパ大学院にはない特徴だと思う。

 

他にも色んな大学院を調べたのだが、私のフランス語のレベルが低すぎて上記3校しかマジで見つからなかった。純粋にデザインや情報系ではなく、経営の要素も入ってくるとMBAなど英語で受験できるところもあると思う。

 

今回はここまで、次回はフランスの大学院受験の仕組みとアプライについて書こうと思う。