フランスに来て起きた心境の変化
フランスに来て明確に自分が変わったなと思うことの一つに国際政治とか地政学に興味を持ち始めたということがある。日本に居た時は、ウクライナの戦争にしてもアメリカの情勢にしても漠然とした興味はあったが遠い国のことだと思い、あまり自分ごととして考えたことはなかった。
しかし、フランスに来て色んな国の出身の人達と話したり、他の国の人が日本に対してどんなイメージを持っているかを知って「一つの国として外から見た日本」や色んな国同士の力関係や政治的な関わりについて興味を持つようになった。
また、自分は現在(ほぼ)移民としてフランスに居るので、日本が他の国とどのように関わるか?どの陣営につくか?フランスとどういう関係か?という問題は自分にとってかなり重要である。アメリカで現在移民が排除されているが、もしフランスで極右政権が議席の過半数を取ったら、自分も帰らねばならなくなるだろう。
いつでも日本に帰れればいいが、現在起きているイスラエルとイランの戦争で、中東はミサイルが飛び交っているし、ロシアとウクライナの戦争も終わる気配がない。飛行機が通るルートがなくなって帰れなくなる可能性もなくはない。
フランスのテレビでは今は一日中イスラエルとイランの戦争のニュースをやっている。パレスチナを擁護するデモも連日行われているらしい(見たことないけど)。
フランスに来た時は「フランス人はデモ好きだなぁ」くらいにしか思っていなかったが、今は、世界で起きている出来事について多くの人が明確な意思を持つことは単純に良いことなのではないかと思っている。基本的に家に引きこもっている自分でさえこういう心境の変化が起きている事を鑑みると、住む環境を変えることは、良くも悪くもアイデンティティや考えに影響を及ぼすんだなあと感じる。
イランとイスラエルの戦争
というわけで最近の私の主な興味はイランとイスラエルの戦争についてである。日本人のXでの反応を見ると多くの日本人がイスラエルを非難している。少し前にパリのホロコースト記念館に訪れたことがありユダヤ人が辿ってきた壮絶な歴史を少し学んだ。大変な虐殺にあい、世界に散り散りになりながらも生き延びてきたユダヤ人は凄いと思うし、タルムード等のユダヤ教の教えは個人的にとても興味がある。ただ、それを鑑みても今回のイランへの攻撃には個人的に否定的である。仮にイランが核開発を裏で進めているのが事実であろうが、平時にいきなりミサイルで他国を攻撃する事は許されないと思う。というか何かの「疑惑」のみで他国をいきなり攻撃することが許されてしまったら戦争をふっかけ放題になってしまう。ウクライナのナチス化を止めるために侵攻したというロシアの言い分も正当化されてしまうだろう。そういう意味でG7がイスラエルを擁護したのは個人的にかなり残念であった。
食い違う双方の言い分
しかし、私のこの見方もSNSやメディアのフィルターバブルによってかなり偏った見方をしている可能性があり、この前ナショナリズムについてのブログなんか偉そうに書いてしまった手前、全く逆の立場からの主張も見る必要があると思った。
というわけでイスラエル擁護派の方の意見をXで探してみたところイスラエルに滞在する日本人の方のXを見つけた。だいたい出てくる意見は以下のようなものである。
- イスラエルは的確に軍事指導者や科学者だけをミサイルで殺害しているが、イランは民間人に対して攻撃している
- ネタニヤフが戦争が始まる前にイスラエルから脱出したというのは陰謀論である
- 元々イランは親イスラエルの国だったが、イスラエル原理主義革命によって女性の権利を抑圧するテロ国家に変わってしまった。今回のイスラエルの攻撃によってイランは独裁政権から開放される
実際ここらへんが事実なのかフェイクなのかは分からない。イスラエル批判の意見ばかり見ていた側からするとそっちこそ陰謀論じゃね?と思う部分もあるが、向こうからしたらこっちが西側のメディアの偏向報道に洗脳されてる陰謀論者なんだろう。というか擁護派も否定派も相手のことを「メディアに騙されている陰謀論者」とみなしているので会話が成立していない。あるのは自分が見たい世界の見方を保証し、自分が持っている意見の妥当性を担保するようなエビデンス(らしいもの)を基にした嘲り合いである。正にナショナリスト的な思考だと思う。このようなXの現状を見て、私はメタルギアソリッド2という20年前のゲームで出てきた未来の情報社会について述べた会話を思い出した。
ロイ(大佐):しかし、現代のデジタル社会では、日々のあらゆる情報が蓄積され、些細な情報がそのままの形で保存されている。
ローズ:誰が言ったかもわからない。ゴミのような噂、間違った解釈、他人の中傷……。
ロイ:あらゆる情報がろ過されず、保存されて、後世に伝えられる。
ローズ:それは進化を止める。
ロイ:世界のデジタル化は、人の弱さを助長し、それぞれだけに都合の良い「真実」の生成を加速している。社会に満ちる「真実」の山を見てみるがいい……。
衝突を恐れてそれぞれのコミュニティにひきこもり―ぬるま湯の中で適当に甘やかしあいながら、好みの「真実」を垂れ流す。
かみ合わないのにぶつからない「真実」の数々。誰も否定されないが、故に誰も正しくない。
ここでは淘汰も起こらない。世界は「真実」で飽和する。メタルギア・ソリッド2から引用
多くの点で現在のSNS社会の特徴を言い当てていて面白いのでこちらも是非
今のSNSはまさに噛み合わないのにぶつからない「真実」の数々で溢れていると感じる。そこから脱するためにできることは、ジョージ・オーウェルが指摘するように自分の中に、ナショナリズム的な傾向(ある意見への肯定を前提に論理とエビデンスを組み立てる傾向)があることを自覚し、なるべくそれに踊らされないように気をつけることだけである。
とか調べてたらまたすごい偏ったタイムラインが形成されてしまった。フィルターバブル極まれり。正気を保つのが難しい時代だなぁ。