善悪の彼岸

ノリと勢いでフランスに来たエンジニアが個人開発や好きな哲学、フランス生活について書くブログ。週2更新。

本田宗一郎の「やりたいことをやれ」を読んだ

私は静岡県浜松市出身なのだが、地元の名士といえば個人的にホンダの創業者、本田宗一郎だと思う。浜松は本田宗一郎以外も、ヤマハの創業者である山葉 寅楠やスズキの創業者の鈴木道雄、河合楽器の創業者の河合 小市など、世界に名だたるメーカーの創業者がやけに多い。何故なんだろうか。気候が温暖でカラッとしているところがちょっとシリコンバレーっぽいといえばそんな気もする。

 

本田宗一郎に関しては、小学校の頃に学習まんがを読んだり調べ学習をした思い出がある。マン島のレースで初めて全クラス優勝した日本人ということだけしか覚えてないけど。それ以来特に著作を読んだことはなかったものの、最近Kindle Unlimitedで面白い本を探していたところ、本書「やりたいことをやれ」が目に留まり、なんだか元気を貰えそうな気がしたので読んでみた。

 

 

以下、個人的に刺さった言葉

 

自由であることについて

家庭人として、社会人として自分の意志のままに行動してそれが無意識のうちに、肉親や友人や隣人の幸福にプラスし、社会や国家の発展に寄与できるという自由人でありたい。いつどこでも、自分のために行動しても、それが社会全体の意志や時代の流れに逆行することがなく、それにプラスするような自由人でありたい。

本田宗一郎. やりたいことをやれ (pp.113-114). PHP研究所. Kindle 版. 

本書のあらゆるところで、本田宗一郎は、自分がやりたいことを早いうちに認識し、それをやることによって社会にプラスに作用する方法を模索するべきだということを言っている。もしその方法が見つかれば、自分が好き勝手にやりたいことをすることで他人の役に立つことができるし、社会や国家の発展に寄与できる。

 

行動を生む動機とか目的は、その人間の思想が組み立てるものだ。思想が正しくなければ、正しい行動は生まれない。何をするかより、何を考えているかが重要なのである。

本田宗一郎. やりたいことをやれ (p.164). PHP研究所. Kindle 版. 

 

しかしそのやりたいことが社会にとってマイナスになるようなことがあってはならない。正しい行動には正しい思想が必要なのである。この箇所以外でも本田宗一郎は繰り返し、哲学を持って経営をすることの大切さを説いている。万人が納得できる哲学を持って、やりたいことをすれば周りが助けてくれるということらしい。

 

人に任せることの大切さ

私は長年、自分の得意で好きな仕事に打ち込むため、わが家の金勘定や財産管理などの一切を他人にまかせっ放しだった。第一線で会社を代表していた時代から今日まで、社印も実印も見たことがないというのは、ほんとうの話である。そういうことが得意で、きちんとやってくれる人を信用し、まかせておいたほうが、私は私の生涯の時間を有効に使えるからである。相互関係を尊重する哲学に支えられていれば、どうやらそれが可能になってくるのだ。

本田宗一郎. やりたいことをやれ (p.157). PHP研究所. Kindle 版. 

 

本田宗一郎は共同で創業した藤沢武夫に経営に関することはほとんど任せており、自分は社印も実印も見たことがないらしい。本書でも各所で自分が得意としたことに集中して、得意ではないことを人に任せることの大切さを言っている。

 

経験自体に価値があるわけではない

それと同じで、単に経験を持っているということだけで、イコール価値あることになりはしない。
経験が尊重されるためには、その人がその経験を通して、いつ、だれが、どこで考えても納得のできる正しい知識を学びとっているかどうかによる。

本田宗一郎. やりたいことをやれ (p.45). PHP研究所. Kindle 版. 

この文は結構刺さった。私は人生どんなことを経験するかが大事でしょと考えていたのだが本田宗一郎によると経験自体には意味がないらしい。経験が価値を発揮するためには、その人が経験を通して汎用的な知識を学べるかどうかにかかっているとのこと。考えてみれば確かにそのとおりである。どんな経験であっても受け取る人間の姿勢や柔軟性によって価値が出たり、無価値になるということだろう。

 

学び直しの大切さ

初めてのピストン・リングの製造に行き詰まった私は、当時の浜松工業専門学校(現・静岡大学)の藤井先生を訪ね、鋳造の専門である田代先生を紹介していただいた。先生は私のつくったピストン・リングをみて、即座に「シリコンが足りませんね」といった。こんなことは金属材料の初歩だという。
そのとき私は、頭をハンマーでガーンと殴られるほどのショックを受けた。そんなことが分からなかったばかりに、どれほどの時間とお金を浪費したことか。私は、早速校長に頼みこんで講義生の一人に加えてもらった。
風変わりな社長兼学生の誕生である。
そして九ヶ月のち、私は念願のピストン・リングの製造に成功したのである。

ピストンリングの開発に行き詰まった本田は自ら静岡大学の教授を尋ねてヒントを貰い、基礎から学習することの大切さを実感し、聴講生として静大の授業を聞くことにしたらしい。今でいう学び直しである。私も30代にしてまた大学院に入り直すので、少し勇気づけられた。

 

おまけ:日産について

昭和37年に、それまでに自動車に参入していない企業は自動車を作ってはいけないという「特振法」という法律を通産省が作ったらしい。結局、制定されなかったらしいのだがその時にホンダを他企業に統合しろと言われた時の本田宗一郎の言葉が下記。

統合しろといわれれば、われわれのような小さなものは、日産に入るかトヨタに入るかだ。
統合しなきゃアメリカの自動車に負けちゃうというから、そこで私はまた怒った。
そんなばかな話があるかってね。

本田宗一郎. やりたいことをやれ (p.91). PHP研究所. Kindle 版. 

日産・・・。今ではホンダが日産を子会社化して立て直すとか言ってるけど昔はホンダの方が弱小企業だったんだなぁ。日産は、そういうかつてのチャンピオン企業としてのプライドもあって、ホンダとの統合を断ったのかなと考えると結構面白い。

 

感想

予想した通り非常に元気をもらえる一冊だった。なんというか、第二次世界大戦後、荒野になってしまった日本を自分の技術や会社によって立て直すんだという希望と野心に満ち溢れていた。また、非常に柔軟な思考の持ち主であったことが伺え、水冷エンジンの有効性を認められず若い技術者と大論争した後、自分が既に技術者として老害になりかけていることを自覚し、経営から身を引いたエピソードなど、自分を客観視し、柔軟に決断できる人物であったこともわかった。

紹介した部分以外でも本田宗一郎の柔軟な思考や、謙虚さが垣間見える箇所がたくさんあり、一つ一つのテーマについて1ページ弱で語られているため非常に読みやすいためオススメです。別の本も読んでみようと思う。